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2009.03.03 (Tue)

「赤い靴」

うめかん

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***



 決断を下したのは自分だった。誰を恨むわけでもない。結局は自己管理ができていなかった自分のせいだ。
 最初に違和感を覚えたのはダンスレッスンの時。足の親指の付け根辺りに痛みを感じた。その時は、足の甲をどこかにぶつけたのか、もしくは突き指でもしたのかと思っていた。が、痛みは何日経っても引かなかった。むしろどんどん酷くなっている気さえした。コンサートでヒールの高いブーツを履き、踊る。痛みは最高潮に達した。笑顔を作ることさえ苦しかった。
 そのうち歩くだけでも激痛を感じるようになり、私はついに病院に行った。遅すぎたのだ。私の足は外反母趾という聞き慣れない病気に蝕まれていたらしい。手術が必要、と言われた。・・・しゅじゅつ? 想像もしていなかった響き。自分とは無縁だと思っていた単語が突然飛び出して、私はただ狼狽するばかりだった。
 今までの足の痛みが外反母趾によるものだったことは、℃-uteのメンバーにも一応伝えた。ダンスレッスンでもコンサートでも歌番組の出演でも、みんなは事あるごとに私の足を気遣ってくれる。ただただ申し訳ない気持ちでいっぱいだった。テーピングをして痛み止めを飲んで、ギリギリまで頑張ろうと思った。そして症状は悪化の一途を辿る。
 私は芸能活動休止を余儀なくされた。手術をしても完全に治るわけではない。また芸能界に復帰するとしたら、今までと同じような靴を履いて同じようなダンスをすることになる。病気は今より酷くなるかもしれない。だけど私は戻りたかった。℃-uteというグループで歌い踊ることは、私の生き甲斐であり、夢だった。

 活動休止を℃-uteのみんなに伝える少し前、えりかちゃんと一緒に買い物に行った。
 普段の生活でも既にヒールのある靴を履くことが苦しかった私は、その頃はスニーカーばかり履いていた。お気に入りの店を見て回る。何気なくウィンドウショッピングをしているようでも、えりかちゃんが私の足を気遣ってゆっくり歩いてくれていることには気づいていた。
 服やアクセサリーを買い込み、靴屋に立ち寄った。スニーカーの棚ばかり見ている私に、えりかちゃんが話しかけてきた。
「ねえ、栞菜。これ可愛くない?」
 えりかちゃんが持っていたのは、赤いエナメルパンプス。あーいいんじゃない?と返して、私はまたスニーカーを物色し始める。だけど、えりかちゃんは続けて言った。
「でもサイズがなくてさー」
「え?」
「このパンプス、MとSしか無いっぽいんだ。私、足デカいから履けないんだよね」
「・・・そっか、残念」
「だから栞菜、どう?」
 ―――えりかちゃんは初めからそのつもりだったみたいだ。丸トウでヒールの無いパンプス。私の足に負担をかけないような、おしゃれで可愛い靴を探してくれたんだ。

「栞菜、早くしなさいよ。10時に予約してるんだから」
「分かってるってば、ちょっと待って」
 母に急かされて、私はいそいそとコートを着込みながら玄関に向かう。今日は病院に行く日。芸能活動を休止してから、私は3日に1度の通院を続けている。
 玄関に出してあるのは、履き慣れたスニーカーと真新しい赤いパンプス。私はパンプスをちらりと横目で見て、いつものスニーカーを履き、母の後を追う。
 今日もいい天気だ。今頃、℃-uteのみんなは何をしてるんだろう。ダンスレッスンかな。もしくは新曲のレコーディングとか。雑誌の撮影かもしれない。色々と想像をめぐらして、私は少し笑った。母の運転する車に乗り込む。
 あのパンプスを履くのは、℃-uteに復帰する日と決めていた。
12:36  |  小説
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