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2009.03.26 (Thu)

「雪辱」

いしよしごま

More・・・

***



『よっすぃ~久しぶり! メアド変えたんなら教えてよー。久々によっすぃ~にメール送ったら返ってきちゃって、ちょっとショックだったんだけど(笑) まぁ3年くらい連絡取ってなかったからしょうがないか。メールがだめならってことで、こうやって原始的な通信手段に頼ることにします。最近、年賀状以外でハガキなんか書かないよねぇ。突然なんだけど、今度会わない? 高校の卒アル見てたら懐かしくなっちゃってさ。暇な日があったら遊ぼー。手紙でもメールでもいいから返事くださーい』

 郵便受けを見たら、珍しく手書きの葉書が入っていた。差出人は後藤真希。ごっちんかぁ。懐かしいなぁ。そして宛名は・・・吉澤ひとみ様。でも残念、私は石川梨華だ。郵便配達のおじさんが、間違えてうちのポストに入れてしまったんだろう。
 よっすぃは私のマンションのお隣さんだ。石川家は406号室で、吉澤家は407号室。いわゆる幼馴染というやつで、親同士も仲がいい。
 私もよっすぃも大学は近所だったし就職先も都内に落ち着いたので、2人とも1人暮らしはせず、ずっとこのマンションに親と一緒に住んでいる。だから私たちは生まれた時から今まで24年間、ずーっとお隣同士なのだ。なんかもうご近所さんというより家族みたいなものだと思う。
 そしてごっちんというのは、高校時代によっすぃと1番仲が良かった子だ。ごっちんは地方の大学に行ったから、高校卒業後はお互い疎遠になってるみたいだけど。よっすぃはどうだか知らないけど、私はもう6年もごっちんには会っていない。

 よっすぃは昔から不思議な子だった。誰に対しても優しくて、細やかな気遣いを忘れず、虚栄心や執着心といった女の子特有のねちっこさがなく、来る者拒まず去る者追わず、そのくせ実は完璧主義で几帳面で、ある意味ナルシストだった。
 よっすぃは他人に対しては柔軟で寛大なのに、自分に対してはどこまでも厳しく、完璧を求める。フレンドリーで優しくて誰とでもうまく付き合っていけるけど、実は誰にも心を開いていない。他人に興味がないのだ。よっすぃの興味の対象は自分自身だけ。だけど、そんなよっすぃは多くの人に愛された。
 私もその1人だ。私はいつもよっすぃを1番近くから見ていた。小さい頃からずっと、私はよっすぃのことが好きだった。一生報われない恋だって分かってたけど。

 よっすぃは高校に入学して、初めて自分自身以外の人間に興味を示した。それが後藤真希という子だった。
「どんなに頑張っても敵わない相手っつーものに初めて出会った」
 よっすぃはよくそんなことを言っていた。よっすぃにそこまで言わせる後藤さんってどんな子なんだろう。私は訊ねてみたことがある。
「その後藤さんって、すっごい頭良くて勉強できるとか?」
「いや、成績はあたしのほうがいい」
「じゃあ、すっごい運動神経がいいとか?」
「いや、それもあたしのほうがいい。ごっちんも足速いけどね。球技のセンスであたしに勝てる奴はいない」
「じゃあ、すっごい絵がうまいとか?」
「それはごっちんのほうがうまいけど、あたしが努力すれば越せるレベル」
「う~ん・・・じゃあ、後藤さんって何がそんなに凄いの?」
「しいて言えば性格・・・かな」
「性格?」
「いや違うな。カリスマ性、みたいな」
「どういうこと?」
「なんかよく分かんないけど、ごっちんには華がある。こいつには絶対勝てないって思わせる、圧倒的なオーラがあるんだ」

 高校時代、よっすぃは毎日ごっちんと一緒に遊んでいた。2人は凄く気が合うみたいで、いつも本当に楽しそうだった。よっすぃのあんな笑顔、初めて見た。普段はポーカーフェイスを気取って物腰も柔らかく大人びた印象のよっすぃが、ごっちんといる時だけは年相応にはしゃいで笑っている。
 生まれた時から家族ぐるみの付き合いをしてきた私より、出会って数ヶ月のごっちんのほうがいいの? 不思議だった。ごっちんと私、一体何が違うって言うの?
 傍から見る限り、ごっちんは特に何が凄いというわけでもなかった。授業中はいつも寝ていて、勉強も当然あまりできないし、人間性が優れているとも思えない。ごっちんはいつものんびりマイペースに生きていて、よっすぃと同じくらい、他人に興味がないようだった。よっすぃはそんなごっちんのどこに魅かれたんだろう。どこが魅力的だって言うんだろう。
 でもいつだったか、よっすぃが言った。
「あたしのことを1番分かろうと努力してくれるのは梨華ちゃん、でもあたしのことを1番分かってくれるのはごっちん」
 ・・・あぁ、そうか。そういうことか。私は唐突に理解した。どんなに頑張っても敵わない相手。よっすぃに関して、私は一生ごっちんに勝つことはできないのだ。・・・ごっちんは、誰よりもよっすぃに似ていた。
 私は心の中で、ごっちんに対して降伏宣言を出した。1番はごっちんに譲るよ。いいんだ、私は2番目でいい。

『暇な日があったら遊ぼー。手紙でもメールでもいいから返事くださーい』
 配達ミスでうちに届いた、ごっちんからよっすぃへの葉書。高校時代より少し大人っぽくなったごっちんの字を眺めて、私は微笑んだ。・・・そう、いつまでも高校時代と同じってわけにはいかないんだよね。
 私は葉書をもう1度読み返してから、細かくちぎってゴミ箱に捨てた。
17:41  |  小説
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