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2010.05.21 (Fri)

「時計の館」

パムさんの吉誕企画に出したものです。
企画終了がいつになるか分からないので、忘れないうちにうpしとく。



よしごま

More・・・

***



 15時10分が近づくと、私は今でもそわそわし始める。秒針のない、長針と短針だけの時計。何十秒も眺めていると、長針はミリ単位、いやナノ単位でじわじわと進みながら、ある瞬間にカチッと音を立てて少し大きく動く。その瞬間が何となく快感で、私は飽きることなく時計を眺めていられる。だから私はデジタル時計は使わない。
 私は、全ての部屋の全ての方角の壁に、様々な種類のアナログ時計を掛けている。いつでもどこでも時計を確認できるように。私の家は、時計に溢れている。私は、時計と共に生きている。

 15時10分は、高校の授業の6限目が終わる時刻だ。それは同時に、放課後が始まる時刻を意味している。7年前、私は高校生だった。私の高校生活は、吉澤ひとみとの時間が全てだった。
 私の席は、廊下側の1番前。よっすぃ~の席は、同じく廊下側の1番後ろ。6限目が終わる頃になると、私たちは教室の時計を凝視する。ナノ単位でじわじわと進む長針を凝視する。長針がカチッと動いた瞬間、私たちは弾かれたように立ち上がり、私は教室の前のドアから、よっすぃ~は後ろのドアから廊下に飛び出す。
「勝った!」
「うあー、負けたぁー。最近ごっちん強いよねぇ」
 最初は、授業終了のチャイムがスタートの合図だった。15時10分直前になると、私たちは耳を澄ませ、チャイムが鳴ると同時に立ち上がり、どちらが速く廊下に出られるかを競う。無意味な遊びだった。
 この競争を繰り返し極めていくうちに、私たちは、教室の時計が15時10分になる瞬間とチャイムが鳴り始める瞬間に1秒ほどの時差があることに気づく。そして、いつの間にかスタートの合図は時計の針になった。

 高校3年生の夏だった。いつも通りの帰り道、私はいつも通りよっすぃ~と一緒に通学路を歩いていた。ふと、靴の中に小さな石ころが入った感覚がした。私は立ち止まり、片足立ちになって靴を脱ぐ。横断歩道の直前だった。よっすぃ~はそのまま数歩先を歩いている。
「ごっちん、何してんの」
 今まで隣を歩いていた私が隣にいないことに気づき、よっすぃ~が振り返った。よっすぃ~は横断歩道の途中で立ち止まった。
「あーごめんごめん、靴に石が入っ・・・」
 私の言葉は、唐突な車の急ブレーキ音にかき消された。目の前の光景はスローモーションのように見えた。信号無視のトラックが突っ込んでくる。私は、よっすぃ~の体が何メートルも吹っ飛ばされ、道路に叩きつけられるのを、声も出せずに見ていた。

 私は今日も、家で時計を眺めながら過ごす。1日中、時計ばかり見ている。そして、15時10分になった瞬間、私はバネ仕掛けの人形のように飛び上がり、部屋から飛び出すのだ。飛び出した先にも、四方に時計が設置されている。この家は、どこもかしこも時計で溢れている。
「よっすぃ~、今日はどっちが勝ったかな」
 私は時計に囲まれて、時計と共に生きている。でも、私の時間は、高校3年生の夏で止まっている。
18:45  |  小説
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